- 節税
- 2018-3-9
勤務医の節税は特定支出控除の有効活用から
特定支出控除の仕組み
勤務医として知っておいて損をしない税制上の制度があります。
それは『特定支出控除』と呼ばれる制度です。
そもそも特定支出控除とはどんな制度なのか?まずはこの『特定支出控除』に関する基礎的な知識からご説明しましょう。
国税庁ホームページでは
特定支出控除の概要
特定支出控除は、特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1(最高 125 万円)を超える場合、その超える部分について、確定申告を通じて給与所得の金額の計算上控除することができる制度です
と記載されています。
これを分かり易く解説すると…
医療機関などで勤務している医師の場合、月々の給与天引きと12月の年末調整とで所得税の納税は基本的に完了します。この税金を計算する際に、実は年間の必要経費を自動的に一定額控除してくれる「給与所得控除」が適用されています。この「給与所得控除」は、必要経費等を自動で控除してくれるとても便利な制度です。しかし一方で、仕事のために負担した支出であっても、その金額がいくら大きくなったとしても、収入に応じ決められた上限額までしかこの制度では控除してくれません。つまり、定められた額を超えて個人が負担した支出は、経費として認められないことになってしまうのです。
「特定支出控除」とは、この控除してもらえなかった支出を経費として認めてもらい、税金還付が受けられるようにできる制度のことなのです。
特定支出として認められる支出は?
では、どのような費用が特定支出として認められるのでしょうか。
具体的には次の1~8の支出が特定支出に含まれます。
1)通勤費
病院へ通勤する場合の通勤費(高速道路料金やガソリン代などが該当します)またアルバイト等で他の病院やクリニックで勤務している人は、その通勤にかかる交通費や燃料費も含まれます。
2)転居費
業務命令による転勤に伴う引越し費用。その際の移動に伴う、高速道路料金、ガソリン代、宿泊代などが該当します。
3)研修費
学会(国際学会を含む)・講演会への参加費、業務上必要とされる知識・技術を習得するための研修費などが該当。また、それらに伴う交通費も含まれます。
4)資格取得費
例えば、勤務先の病院が介護施設と連携することになり、病院から介護福祉士やケアマネージャーの資格取得を命じられた場合、その取得費用が該当します。 また、認定医や専門医の資格を取得する際にかかる受験料、更新料等も対象となります。
5)帰宅旅費
遠方の病院への転勤により単身赴任を余儀なくされた場合、妻子が暮らす自宅へ帰省する費用が該当します。
6)職務と関連する図書購入費用
医学書のほか、新聞や雑誌、定期刊行物など、職務に関連するものであれば、その購入費が該当します。また、電子書籍や有料メールマガジンなども含まれます。
7)職場で着用する衣服費
白衣や術衣が病院から貸与されず、自ら購入しているのであれば、その費用が該当します。
8)職務に必要な交際費
勤務医の場合は、関係が深い医局の親睦会への参加費、教授・同門の医師との交際・接待費などが該当します。
上記のうち6~8を「勤務必要費用」といい、これらについては3項目の合計が年間65万円までと限定されています。
なお、後述しますが、1~8の費用はすべて、給与の支払者である病院の証明がなければ特定支出として認められないため、注意が必要です。
特定支出控除を受けるための判断基準とは
特定支出控除は「個人が業務に伴う費用を負担(特定支出)した場合に、それが一定額を超えるとき、超過した金額を給与所得控除額に加算(所得金額から減算)できる制度」のことです。 実はこの制度は以前から存在していましたが、利用する人はほぼいませんでした。しかし2012年の税制改正で基準が緩和され、以前より利用する人が格段に増えているのです。
ところで、そもそもこの特定支出控除が受けられるかどうかは、自分の収入額に応じた給与所得控除額から判断しないといけません。
下記は「平成29年分」として適用できる、収入額と給与所得控除額の計算式の対応表です。
平成29年分
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 | |
1,800,000円以下 | 収入金額×40% 650,000円に満たない場合には650,000円 |
|
1,800,000円超 | 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+180,000円 |
3,600,000円超 | 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+540,000円 |
6,600,000円超 | 10,000,000円以下 | 収入金額×10%+1,200,000円 |
10,000,000円超 | 2,200,000円(上限) |
特定支出が上記の計算式によって算出した給与所得控除額の半分を超えている場合に限り、その超えた分を給与所得控除額に加算できるのです。
たとえば、年収が1,000万円で特定支出が150万円ある医師の特定支出控除は…
給与所得控除額=220万円
特定支出控除=150万円-220万円×1/2=40万円
つまり40万円を、特定支出控除として給与所得控除額に加算できることになり、結果として課税所得が40万円減らせることに繋がるのです。
しかしこの場合、もし特定支出が110万円以下であったなら、そもそもこの制度が適用されることはありません。
特定支出控除を受ける為に必要な手続き・証明書
まず大前提として、特定支出控除を受けるには確定申告を行う必要があります。
確定申告書に「特定支出控除の適用を受ける旨」と「特定支出の合計額」を記載し、同時に「特定支出に関する明細書」と「給与等の支払者(勤務医であれば病院やクリニック)の証明書」を添付します。 また、「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」「支出した金額を証明する書類(領収書など)」を添付するか、申告書の提出時に提示しなければならないとされています。 (詳しくは、国税庁のホームページ「給与所得者の特定支出控除に関する証明書の様式等の制定について」でご確認ください)
このように特定支出控除を受けるには、確定申告を行ったり、また勤務先の病院から証明書をもらわなければならなかったりと、面倒な手続きが多いのも事実です。ただ、個人で経費を負担することの多い勤務医だからこそ、是非有効活用すべき制度であるともいえます。勤務医の方は節税のための“第一歩”として、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
・プロフィール
株式会社VIDA MIA代表取締役
生命保険・損害保険のコンサルティング、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)として長期資産運用の提案、相続・事業承継対策として遺言の作成および民事信託(遺言代用信託)スキームの提案、と保険やオペレーティング・リース、投資信託など多岐に渡った金融商品を取扱い、専門家の税理士や弁護士とも提携してワンストップ型の独立系総合金融サービスを展開しています。
経歴を見る
・経歴
1972年生
滋賀県守山市出身
1991年
洛星高校 卒業
1996年
神戸大学 教育学部 卒業
1996年
大同生命保険相互会社 入社。企業年金部に配属後、大阪・京都で営業課長を歴任。
2015年
株式会社FPG 入社。大阪・広島で副支店長としてオペレーティング・リース(JOL)の販売に従事。
2016年
株式会社VIDA MIA 代表取締役就任
- 医師におすすめしたい「個人年金保険」と「iDeCo」の活用 - 2018年10月23日
- 医師にとって「投機」はすべて悪なのか - 2018年10月23日
- 医師も知っておくべき海外不動産投資 - 2018年7月2日