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医師の年収は将来どうなっていくか?

医師という職業の現状

医師という職業は、最難関国家資格の筆頭格である医師免許を取得すると、研修医や駆け出しの若い医師であっても周囲からは「先生、先生」と呼ばれ、生涯に亘り高収入が約束される安定した職業の代表格と考えられています。その為、学業優秀、偏差値が高い高校生の医学部志向は近年の少子化傾向の中でも益々強まっているようで、医学部人気が過熱しています。日本が人口減少により経済規模がシュリンクしていく中で育った世代では、医師など高い年収を得られる国家資格や公務員といった(将来はどうなるかは別として、今は安定していると多くの人が考える)職業が人気となっています。

確かに月収や年収から見て、医師の収入は他の職業より多い傾向にあるのは事実でしょう。しかし実際に医師として働いている人たちの実感としては、人命を預かるという責任の重さ、精神的プレッシャーにさらされる日常、昨今の訴訟リスクの高まり、当直など時間的拘束の長さなどから時給換算で考えた時の収入やこれまでの人生で医師になる為に費やしてきた時間と労力、様々な努力や苦労、そして死ぬまで弛まぬ学習や継続的な努力が求められる事などを考慮すると決して楽をして稼げる職業ではないよ、というのが偽らざる本心で、現に自分の子供には医師という職業に就く事を奨めないと言う医師も少なくありません。

医師は将来飽和状態になる?

別の記事でも記載しましたが、2016年3月、厚生労働省が2040年には全国で医師が3万4,000人ほど過剰になるとの推計結果を発表しました。医学部新設や医学部定員の増加などにより毎年9,000人以上の医師を目指す人材(医学生)が供給され続けていきます。
育児中の女性医師やリタイアする高齢医師の臨床現場における労働力減少も勘案した数字との事ですが、医師にとっては将来、医師数が飽和して過剰になるかもしれないという厚労省の推計は、やはり無視できない将来予測で現役医師のみなさんが危機感を感じる材料のひとつと言えるでしょう。

将来ロボットに取って代わられる医師の仕事は?

上述した厚労省の将来医師数の予測にもまして、現役医師にとってより身近で話題性の高いものがあります。それはIT医療やロボット医療、AIなど技術進歩の急速な発展と実用化といった話題でしょう。今の臨床現場(特に外科手術領域)で身近になっているものに、内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」があります。ダヴィンチは前立腺がんの手術などで積極的に活用されていますが、今後は腎臓がんの部分切除や膀胱がんの膀胱全摘術、消化器領域の胃がん、婦人科領域では子宮がんなどもロボットで手術ができるようになると言われています。これらはあくまで「手術支援」ロボットですので、メインの術者である外科医の仕事がロボットに完全に取って代わられる訳ではありません。

しかし、もっと身近なところでIT医療は急速なスピードで拡がりを見せています。ITを活用した「遠隔診療」、「IT医療相談」など医師免許を保有する医師数名が起業して運営しているIT企業が珍しくなくなってきました。スマホやパソコンを通じて医師に医療相談や健康相談ができるサービスなどが出てきています。私がお付き合いのある医師の中にも臨床医として常勤先の仕事を続けながら、空き時間にアルバイトでIT医療相談を遠隔(WEB)で行っている医師が数名います。こちらの遠隔業務をメインにして、臨床現場での仕事をサブにしている医師もいます。

HealthとTechnologyを合わせた「ヘルステック」という新語も見聞きする機会が増えました。スマホやパソコンを通じて自宅に居ながらにして医師に医療相談をしたり、健康管理ができる時代になりつつあるのです。専用アプリをインストールしたスマホやiPadなどのタブレット端末を使って内臓カメラで医師は患者の顔を見ながら診察する事も可能です。患部の画像や血圧など種々のデータをWEBでやりとりすれば、医師と患者は直接会わなくとも、ある程度の診療ができる時代が既に到来しているのです。オンライン上で医師から診察を受けられる遠隔診療サービスです。これが既に現実のものとなり運用が始まっている事を知る医師の方は少なくないでしょう。投薬指示や必要な場合は実際に来院しての受診を促したりというレベルの遠隔診療は既に実用化されているのです。

別の記事で取り上げたAI(Artificial Intelligence人工知能)技術も各方面で実用化が進んでいます。例えば最近話題のAIスピーカーにはGoogleやAmazonなどが続々参入しています。実際にAIスピーカーを体験済みで使っている人もいらっしゃる事でしょう。遠隔診療のプラットフォームとAI技術など、今ある技術を組み合わせる事で、医療機関の臨床現場や在宅医療に導入できるものがあるかもしれません。病院への通院が困難な患者さんにとっても、時間が限られた多忙な医師にとっても実際に来院や訪問診療をしなければならないケースはこれらIT医療技術の進歩によって訪問頻度や来院回数を減らす事ができるかもしれません。これは患者や医師個人にとっては短期的には良い事だと思います。しかし、一方で病院経営の観点からは安穏としていられない事態であるという側面もあるでしょう。来院患者が減少するとそれに応じて必要医師数も減少するかもしれません。必然的に医師の年収にも下げ圧力が掛かる可能性が考えられます。
AIについては別の記事でも少し取り上げていますので、興味のある方はそちらの記事もご覧ください。

医師の年収は今後どうなる?

このようなAI時代が到来してIT技術やロボット、AI技術が今後益々医療現場に導入される事はその範囲とスピードの差こそあれ、現実に起こり得る事態でしょう。

しかし、決して生身の人間である医師が必要なくなるという事はないでしょう。AI時代に益々求められるのは患者さんに寄り添う人間味のある医師、対面でないとできない診療や治療で頼りにされる医師、医師として長年培ってきた勘や経験がロジックや数値、エビデンスを時に凌駕する、或いは補完する武器になる事もあるでしょう。人間にしかできない、決してロボットに置き換えられないような魅力ある医師は将来に亘って貴重な存在として必要とされるのではないでしょうか。

たとえ年収減少時代が医師の世界に到来したとしても、リアルな医療現場で必要とされる医師である為に、或いは、時代の要請に応じて変化していけるような医師である為に、AIの存在や将来的な医師数の予測なども注視しながら医師としてのキャリアプランや現在の病院が将来にわたって安定した勤務場所となり得るのかどうかを一度チェックしてみてください。

医師転職市場の状況や医師の需給バランス、診療分野の将来性、医療法人や病院、クリニックなど職場の経営理念、経営状況・財務内容などを意識して自分の将来を考えてみるのも時に必要です。

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三木正孝

・プロフィール

医師の転職支援サービス「医師転職コンシェルジュ」を運営し、自らもエージェントとして医師の転職をサポートしています。これまでに14年間、多くの医師の転職を成功に導きました。

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・経歴

1969年大阪生まれ
大阪明星学園・明星高等学校卒業(高校3年時・剣道3段、玉竜旗全国高等学校剣道大会出場)
関西大学 法学部法律学科卒業(専攻・民法総則=高森ゼミ第14期幹事、大学4年時・剣道4段)

1992年
総合商社 ニチメン(現・双日株式会社)入社。商社マンとして11年間(1992-2003年)勤務

2003年
NZ・Hawaii短期留学・ビジネス視察

2004年
株式会社レイ・クルーズ設立、代表取締役に就任。
大前研一塾長ABS(アタッカーズビジネススクール)第19期
~現在に至る。